• 芸術テロリスト「バンクシー展」にみる人々を熱狂させるアートと経済効果

2020.7.26 2024.4.12 アート

芸術テロリスト「バンクシー展」にみる人々を熱狂させるアートと経済効果

Kate Moss <ケイト・モス>

 
こんにちは。イラストレーターのkisa(@kisa.ne.jp)です。
日本初上陸の展覧会「バンクシー展 天才か反逆者か」が開催されました。
会場には70点以上もの作品が展示され、過去最大級の規模となっています。
(バンクシー非公認)

匿名アーティスト、バンクシーはなぜこれほど世界中で注目されているのか?
本記事では実際に展覧会に訪れて、バンクシーの人々の心をつかみ、経済効果を生むアートについてご紹介します。

バンクシーとは何者か

バンクシーの映像や写真からスタジオを再現

 

バンクシー(Banksy, 生年月日未公表)は、英国を拠点とする匿名のアーティスト(路上芸術家)、政治活動家、映画監督。彼の風刺ストリートアートと破壊的なエピグラムは、独特のステンシル技法で実行された落書きとダークユーモアを組み合わせたものである。

出典: Wikipedia

 

世界各地の壁などにゲリラ的に描いたり、メトロポリタン美術館などの有名な美術館に無許可で自身の作品を展示したため、「芸術テロリスト」とも呼ばれるようになりました。

 

バンクシーの作品

 

世界各地に描かれたストリートアートですが、バンクシーの拠点、ロンドンや、ニューヨークに特に集結しています。
消されたり壁ごと持ち去られたりすることもあり、画像でしか見られないものもあります。

「NYストリートアートプロジェクト」にてバンクシーが毎日ニューヨークのどこかに作品を残して、それをインスタグラムで投稿していくと話題になりました。
写真を手がかりに、作品を見つけた人が「ここにあった!」とシェアしました。そしてスラム街など各地で作品が見つかる度に、たくさんの観光客が訪れ、経済効果を生んだのです。

 

ステンシル技法

Bomb Hugger <爆弾愛>

 

プレートに文字やイラストの形をくり抜き、そこにスプレーを吹きかけて描く技法で、そのプレートがこのように展示されていました。

最初は壁などにフリーハンドで描いていたそうですが、器物破損や不法侵入にあたる犯罪のため、警察に捕まるのを防ぐために時短としてステンシルに変更したようです。

 

題材・モチーフ

Napalm <ナパーム弾>

 

バンクシーは「反戦争・反権力・反資本主義」の平和主義者で、多くの作品にそのメッセージ性が強く表れています。

モチーフとしてはネズミ、サル、警察、兵士、子どもが多く、弱者や権力者を風刺画で表現します。

 

Keep It Real <自分自身であり続けることに価値がある>

 

会場にはバンクシーの言葉や解説が壁に書かれてあるのですが、その中で私が一番心に突き刺さった言葉がこちらです。

 

世界最大の犯罪は、規則を破る者によってではなく、規則に従うものによって犯される。命令に従って爆弾を投下し、村で虐殺を行うのは人間なのである。

出典:バンクシー著「ウォール・アンド・ピース」

 

洗脳状態の場合もあるかもしれませんが、権力者だから正しいとか愛国心や世の中の常識など、大きな力やものにそのまま流されずに、自分の頭で考えること、本質を見極めることの重要性と勇気について考えさせられました。

 

企業案件も手掛けていた

ロックバンドBLUR「THINK TANK」ジャケットイラスト

 

バンクシーは大手企業からの案件でも一切受けないことで知られていますが、ある時期は受けていたことがあります。

イギリスのロックバンド、ブラーの7枚目のスタジオアルバム「シンク・タンク」のジャケットを担当しました。
他にも、NGOのポスターや、原宿系アパレルブランドのTシャツのデザインを手掛けていました。

 

衝撃的な活動

偽札アート「ダイフェイスド・テナー」

Di-Faced Tenner <ダイアナ元妃の顔した10ポンド札>

 

本物の紙幣にはエリザベス女王が描かれていますが、ダイアナ元妃にすり替わっています。
さらに、イングランド銀行「BANK OF ENGLAND」をBANKSY OF ENGLAND」という表記でもじりました。
また片面には「請求していただければ額面金額をお支払いします」と書かれ、チャールズ・ダーウィンが描かれたもう片面には「誰も信用するな」と書かれていました。

バンクシーは印刷した100万枚の一部を、カーニバルでばらまきました。
拾った者が地元の店で偽物と知りながら支払い、それを店側も気がつかず受け取ってしまったため、「自分は偽札を作ってしまった..」と気づかされ、ばらまくのをやめました。

 

悪魔のテーマパーク「ディズマランド」

ゲートをくぐって正面に見えるノイズの入ったアリエル

 

ディズマランドは、ロンドンの郊外で5週間の期間限定で開催されました。
およそ15万人が訪れ、36億円の経済効果を生みました。

ディズマ<Disma>とは「陰気・憂鬱な」という意味で、馬車の中でシンデレラが亡くなっていたり、暗い顔した移民がボートにたくさん乗っていたり…
本家の夢の国とは真逆の、子どもが泣き出してしまいそうなテーマパークです。

先ほどご紹介した作品にも描かれていますが、バンクシーはミッキーマウスやマクドナルドのドナルドなど、アメリカの資本主義を皮肉っています。

本家の入場料は8,200円で3歳以下は無料にですが、
ディズマランドの入場料は3ポンド(約580円)5歳以下は無料だったようです。

会場ではディズマランドのプロモーション映像を見ることができます。
スタッフもだるそうにしていて、恐いけど笑えました。

 

反戦のデモ「ロング・ウォー」

デモで使われたダンボール

 

イラク侵攻に反対してイギリス史上最大の反戦運動が行われ、100〜200万人が行進しました。
26人のアーティストが反戦マニフェストを作成し、その1人がバンクシーでした。
折れ線が入っていたり穴があいていたり、デモの様子がうかがえます。

 

世界一眺めの悪いホテル「ウォールド・オフ・ホテル」

ホテルの玄関に飾られている看板を再現

 

バンクシーは、イスラエルとパレスチナを隔てる壁の近くに、「THE WALLED OFF HOTEL」別名「世界一眺めの悪いホテル」を建てました。
メインターゲットはイスラエルからの観光客で、隔離壁の側で暮らすことがパレスチナ人にとってどれほどの苦痛かを、バンクシーは訴えようとしました。

 

ホテルの客室を再現

 

バンクシーの作品だけでなく、パレスチナ人アーティストの作品もたくさん展示されています。

館内には「壁の博物館」というパレスチナとイスラエルの争いの歴史を辿ることができるスペースがあり、宿泊客でなくても鑑賞できます。

 

常設展示に一体化させた「バンクシー VSブリストルミュージアム」

個展で実際に貼られたポスター

 

バンクシーはイギリスのブリストルミュージアムにて、伝統的な常設展示にとけ込ませた個展を開きました。

武装されたダビデ像の他にも、女性の絵にガスマスクを装着させたり、ゴッホのひまわりが枯れているものなど、さまざまな技法で制作された100点以上の作品を公開しました。

バンクシーの狙いは「鑑賞者に日常生活の文化的要素に関心を向けてもらうこと」でした。
入場だけで数時間も待つほど大盛況で、2009年のイギリスで最も多くの来場者を集めました。

 

インド象にペイント「ベアリー・リーガル」展

Tai <37歳のインド像>

 

バンクシーはロサンゼルスにて変わった個展を開きました。
ベアリー・リーガル<Barely Legal>とは「かろうじて合法」という意味です。

インド象に壁紙の模様をペイントしたもので、動物の権利について考えさせられます。
使った塗料は毒性のないもので、3日間エサや水も与えられ、夜には象舎に帰って眠っていたとのことです。

来場者は3日間で3万5,000人を超え、アート業界の関係者やセレブの関心が集まりました。

 

シュレッダーにかけられた「ガール・ウィズ・バルーン」

Girl with Balloon <風船と少女>

 

ニュースでも話題になった、バンクシーの最も人気な作品です。
サザビーズのオークションにて、1億5,000万円で落札された直後、仕込んでいたシュレッダーでその絵が破損しました。
落札者はこのままの金額で購入し「最初はショックだったが、美術史に残る作品を所有することになるのだということに気づいた」と述べています。
新たに生まれたこの作品を、「愛はごみ箱の中に」というタイトルがつけられました。

バンクシーはオークションに対して否定的で、ニューヨークタイムズにこう述べています。

「ストリートアートは最初の場所で販売用に描かれてない限り、誰も売り買いしないように忠告したい」

この言葉に反して、切り刻まれたことによってさらに価値は上がりました。

 

天才か反逆者か?バンクシーの魅力

ここまでバンクシーの活動をご紹介してきましたが、バンクシーの魅力を以下にまとめました。

  • 匿名で正体不明という神秘性
  • 世界の政治や事件などの問題について表現したアートで、見る人に自分ごととして考えさせる一貫した強いメッセージ性
  • ゲリラ的に描かれる神出鬼没さと、描かれた場所にも意味があること
  • 若者や女性にも好まれるポップでオシャレ、キャッチーなアート
  • 意表をつく行動で、次はなにをしてくれるのかという期待感

 
私たちの周りでも「ミステリアス」「一貫した言動」「オシャレ」「飽きさせない」このような特徴をもった人は興味を引きつけます。

 

「バンクシー展 天才か反逆者か」というイベント名で問われていますが、
会場ではその回答を投票でき、現在このような割合になっています。

 

 

私は「天才」と呼ぶ方がしっくりきます。
たしかに落書きという本来犯罪行為をしながら、戦争や権力に抵抗しているので反逆者とも言えます。
ですが世界でアートとして認められ、作品のすばらしささることながら、パフォーマンス性の高さや魅せ方が「バンクシー」というブランディングの天才だと感じました。

 

開催概要と音声ガイド

バンクシーがどういう意図で描いたのか、無料音声ガイドで聞きながら鑑賞するとより楽しめるのでオススメです。

izi.TRAVEL」というアプリをダウンロードし、こちらをクリックか、
下記のQRコードを読み込めば聞くことができます。

※コロナ対策によりチケットは事前にネットで購入する必要があります。

 

「バンクシー展 天才か反逆者か」

 <横浜>
 ■期間 2020年3月15日(日)〜9月27日(日)
     10:00~20:30(最終入場20:00) ※会期中無休

 ■会場 神奈川県横浜市西区高島2-14-9 アソビル2F

 <大阪>
 ■期間 2020年10月9日(金)〜2021年1月17日(日)
     平日10:00~17:00(10月は20:00まで)
     土日祝10:00~20:00 ※12/31、1/1は休館
 
 ■会場 大阪府大阪市住之江区南港北2-1-10
     大阪南港ATC Gallery(ITM棟2F)

 

「Casaバンクシー 特集号」では、写真盛り沢山でわかりやすくまとまっています。

 

さいごに

バンクシー展は本物の作品、メッセージやインスタレーション、イメージに合ったBGMなど、震えるほどかっこいい世界観でした。
実際に壁にかかれたストリートアートも見てみたくなります。
今後も新作や活動から目が離せません!

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